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STM32N6:組込みAIマイクロコントローラの未来を覗く
2023年4月26日
STM32N6は、STが近く発表を予定しているニューラル・プロセッシング・ユニット「Neural-ART アクセラレータ™」搭載の汎用マイクロコントローラです。3月にドイツ・ニュルンベルクで開催された展示会embedded worldで大きな注目を浴びました。そこで、ブースで来場者への説明に当たったMiguel CastroからSTM32N6についての話を聞きました。
製品担当者の自己紹介
STM32N6について説明する
Miguel Castro
Miguel Castro:Miguel Castroと申します。STのマイクロコントローラ & デジタルICグループAIソリューション事業部門でプロダクト & アーキテクチャ・チームの責任者を務めています。主要なお客様やパートナーを相手に、第1世代のAIハードウェア・アクセラレーション対応STM32マイクロコントローラのライブデモを行う機会に恵まれました。今回、会場でお客様からいただいたご意見をお伝えいたします。
embedded world 2023には何を出展しましたか?新しいSTM32N6の優れた点は何ですか?
embedded world 2023では、STM32H747(480MHz動作のArm® Cortex®-M7)ディスカバリ・キットで動作するSTのカスタムYOLO微分ニューラル・ネットワークを実行するデモを非公開で実施しました。このニューラル・ネットワークは、1フレームごとに複数の人物を検出し、位置を特定できます。これは、多くのお客様に求められている一般的なタイプのエッジAIワークロードで、デバイスの性能を明らかにするための基準としてよく用いられます。また、まったく同じニューラル・ネットワークを、近日発表予定のSTM32N6ディスカバリ・キットでも実行しました。比較デモの結果、STM32N6は最大動作周波数がSTM32H7の2倍未満でありながら、STM32H7の75倍のフレームを処理できました。
STM32N6の卓越した効率と性能を実現したのが、STが開発したニューラル・プロセッシング・ユニット「Neural-ART アクセラレータ™」です。デモでは示しませんでしたが、STM32N6の推論速度は800MHzで動作するデュアルコアCortex-A7を搭載したSTM32MP1マイクロプロセッサの25倍に及んでいます。マイクロプロセッサ・クラスのエッジAI性能を汎用マイクロコントローラのコストと消費電力で実現できるため、さまざまな新たな可能性を期待できます。しかも、新たに追加されたIPやペリフェラルを考慮に入れれば可能性はさらに広がります。これらは、汎用マイクロコントローラではかつて見られなかったもので、例えば、MIPI-CSIカメラ・インタフェース、コンピュータ・ビジョン用イメージ・シグナル・プロセッサ(ISP)、H.264ビデオ・エンコーダ、TSN(Time-Sensitive Networking)エンドポイントをサポートしたギガビット・イーサネット・コントローラなどがあります。
展示会で最もよく尋ねられた質問は何ですか?
展示会でお客様から最もよく尋ねられたのは、製品のミッション・プロファイルについてでした。多くの人は、STM32N6が優れたGOPS性能にもかかわらず、パッシブ冷却が不要であることに驚嘆していました。ほとんどの既存AI処理用製品はパッシブ冷却またはヒート・シンクが必要だからです。その答えは、STM32N6がそもそも汎用STM32製品であり、そのアプリケーションがエッジAIチップにとどまらないことです。そのため、高温環境下での動作をはじめ、産業機器分野のお客様のあらゆる要件を満たしたミッション・プロファイルを実現しています。STがこのパフォーマンスをこのコストと電力プロファイルで実現した「秘伝のレシピ」は、設計、アーキテクチャ、およびST Neural-ARTアクセラレータの効率性にあります。
2番目に多かった質問は、2つのデモのディスプレイ(カメラ・プレビュー)間の応答時間差についてでした。その答えは、STM32H7の場合、人物検出および位置特定タスクを実行するのに処理能力のほぼすべてが必要で、画面のリフレッシュに集中できるリソースがほとんど残っていないからです。さらに、カメラの前を素早く移動する人物に反応できるほどのオーバーヘッドもほとんどありませんでした。対照的に、STM32N6ボード・ディスプレイは非常に滑らかで応答が速く、人物の動きに完璧に追従することができました。なぜかと言えば、STM32N6はAIコンピューティング・タスクをST Neural-ARTアクセラレータ™、プレビュー機能をSTM32N6のコンピュータ・ビジョン・パイプラインにリダイレクトして、Cortex-Mが他のタスクを柔軟に処理できるようにしているからです。
STM32N6は来場者の関心を集めていましたか?STM32N6の応用性について質問はありましたか?
はい。パートナーやお客様からの問い合わせの多くは、STの新しいニューラル・プロセッシング・ユニットをサポートする開発エコシステムの利用可能性についてでした。答えはシンプルで、STには、2019年の提供開始以来、ニューラル・ネットワークを最適にSTM32へマッピングできるようにSTM32Cube.AIを提供しています。STにとって、STM32N6も例外ではありません。このツールは、サポートするすべての演算とレイヤーをニューラル・プロセッシング・ユニットに自動的にマッピングして、推論効率を最大限に高めます。
また、より高度なユーザのために、お客様固有のあらゆる最適化のご依頼に対応することも可能です。ハードウェア、ソフトウェア、ツールがすべてSTの自社開発だからです。そのため、すべての要素の連携や最適化において死角はありません。
製品リリースにおける次のマイルストーンは、1月に導入したSTM32Cube.AI Developer Cloudボード・ファームにSTM32N6ディスカバリ・ボードを追加することです。そうすれば、誰でもチップを用意することも、特定のST環境をコンピュータにインストールすることも不要で、自分のニューラル・ネットワークからの推論の結果を新しいチップでテストできるようになります。
STM32Cube.AI Developer Cloud
お客様との会話の中で、供給体制について尋ねられたときにどう答えましたか?
embedded worldでは、誰もが供給体制を知りたがっていました。しかし、当社の優先事項は量産開始を急ぐことではありません。むしろ、この新しいチップの広範な可能性の実証に協力することを確約していただいた一連のリーディング顧客をあらかじめ選定し、供給することに集中して取り組んでいます。STM32N6は多くのイノベーションをもたらします。そのため、通常より多くのリーディング顧客と協力しています。理由は、新しいIPにより、より複雑で、さまざまなスキルを必要とするより先進的なアプリケーションが実現するからです。これらのリーディング顧客のアプリケーションにST製品を採用していただけるように、最高のサポートを提供しています。今後数カ月の間に詳細をお伝えする予定ですので、引き続きご注目ください。
エッジAIの分岐点に差し掛かっている今、お客様の懸念や問題点について何か共有いただきましたか?
現在、お客様はSTの長期ビジョンに非常に関心があります。だからこそ、STM32マイクロコントローラおよびマイクロプロセッサの製品ポートフォリオでのエッジAIアクセラレーションの段階的な拡大をロードマップで明らかにしています。さらに、性能とエネルギー効率の大幅な向上を示すAIアクセラレータのロードマップも公開しています。ここでは説明を省きますが、STは2023年2月にサンフランシスコで開催されたISSCCなど、最近の最も重要な技術カンファレンスで論文やプレゼンテーションを発表しています。それらをご覧いただければ、どのような未来が訪れるのかを知る上で何らかのヒントになるかもしれません。STのエンジニアや研究スタッフは、最高のエッジAIハードウェア、ソフトウェア、およびツールをお客様に提供するために懸命に取り組んでいます。また、お客様は定期的なコミュニケーションを通じて、STのロードマップに影響を与えたり、この先登場する製品が市場に革命をもたらすことを可能にするものかどうかを確かめたりすることができます。 2017年にエッジAIアプリケーションに取り組み始めて以来、STは多くのお客様のアプリケーション開発の支援、協力、共同設計を行ってきました。そうした取り組みから、STはお客様の生産中のアプリケーションの多くを細部まで理解しており、エッジAI市場が今後も拡大するという展望を示すことができます。そうしたAIアクセラレーション製品がもたらす大きな潮流を目にすることを楽しみにしています。
STのAI開発エコシステムに対する理解を深める方法はありますか?
STM32Cube.AIをダウンロードしたり、新しいDeveloper Cloudをお試しいただけます。質問や不明点があれば、edge.ai@st.comまでお問い合わせください。
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