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STM32H7/F4 TSNベース産業用ネットワーク
加速するスマート・ファクトリ
「工場のスマート化」とは、装置や機器・設備の状態監視をはじめ、作業の進捗などの情報をセンサやカメラを用いデータ収集します。これらの情報を分析・共有化することによって、生産効率や製品品質を向上させるシステムを備えることが求められています。このスマート・ファクトリ対応の流れは、自動車工場のみならず、さまざまな生産現場で加速しています。
近年の工場では不良品の排除に加えてダウンタイム(中断時間、休止時間など)を削減し、高い生産性を維持することが必須要件です。また、製造工程だけでなく、梱包工程においても、あらゆるムダを排除し、正確かつ高速な製品充填と梱包を行うことが求められています。
一方、信頼性の観点からは、トレーサビリティ・データ(製造工程における不良原因を特定する記録等)を収集し、短時間でデータを処理する必要があります。また、ロボットを採用している工場では、その安全性も考慮しなければなりません。
これらの実現に向けて、大量のデータを短時間で処理できる大容量な通信ネットワークが不可欠です。また、生産性や安全性に加え、保守・管理のしやすさ、さらには省エネルギー化やコスト削減など、品質向上に向けて、あらゆる観点での高度化が求められています。
工場内ネットワーク例
スマート化の障壁
すでに、多くの工場では複数の産業用オープン・ネットワークや標準イーサネットが使用され、生産現場の情報収集やデータ伝送が実用化されています。一方、イーサネット以外の通信システムでデータ伝送を行うレガシーな通信手段が残されているのも事実です。
そのため、各ネットワークは独立しており、製造データや制御情報などが、ネットワーク間で連携されていない問題が多く見受けられます。
また、1つのネットワークが大容量のデータを伝送することにより、他のネットワークに影響を及ぼし、これが通信障害の原因につながります。このように独立したネットワーク間の問題が、工場をスマート化する上で大きな障害になっています。
その解決策として、既存のネットワークをシームレスに接続し、データ収集から同期、伝送、さらには活用に至るまでを、リアルタイムに実現できるシステムの構築が急務となります。とはいえ、既存のシステムすべてを新しいネットワークに作り替えることは現実的でありません。既設のネットワークを同一幹線上で混在させ、各種トポロジに対応できるような柔軟なIIoT(Industrial Internet of Things:製造業における、モノのインターネット)システムを構築する必要があります。
CC-Link IE TSN
そこで、昨今注目されている産業用ネットワークが、CC-Link IE TSNです。CC-Link IE TSNは、CC-Link協会 が普及推進するTSN(Time Sensitive Networking)規格の産業用オープンネットワークです。
CCとは、Control & Communication Linkの略称です。最高10Mbpsの高速伝送と、RS-485ベースのネットワークなので、総延長距離1200m(伝送速度156kbps時)まで実現できます。
CC-Link IEとは、CC-Link協会によって開発されたオープン・ネットワークで、ギガビット・イーサネットをベースに構成されています。
通信プロトコルはCC-Linkも含めて共通プロトコルであるSLMP(Seamless Message Protocol:ネットワークの違いを意識せずシームレスに通信することを目的とした、アプリケーション共通プロトコル)が使用されており、トークン・パッシング方式(データの送信権を表す「トークン:token」と呼ばれるデータを回線上に常時周回させる方式)で通信されます。プロトコルを統一し、共有メモリ領域を利用して、上位パソコンから生産現場までシームレスにつなぐことができます。
TSNとは、IEEE(米国電気電子学会)が定義するイーサネット・データリンク層(レイヤ2)の拡張規格です。複数の国際標準規格で構成されています。IEEE802.1AS(時刻同期方式)とIEEE802.1Qbv(時分割方式)を組み合わせることで、定時性や異なる通信プロトコルの混在が可能です。そのため、リアルタイム性や時刻同期などの機能を持たせることができます。
CC-Link IE TSNは、CC-Link IEに標準イーサネット 規格を拡張したTSNの技術を採用し、効率的なプロトコルにより従来の CC-Link IEの性能・機能をさらに強化したものです。
さまざまな機器に実装でき、制御通信とIP通信による情報通信の混在使用を可能にするなど、IoTを活用したスマート化が、短期間で効率よく行えます。
- 制御通信と情報通信の融合
- 高速・高精度な制御の実現
- 立上・運用・保守における工数削減
- 多様な開発手法による対応製品の拡充
(CC-Link協会 ネットワーク技術 CC-Link IE TSNのWebから引用)
STのCC-Link IE TSN対応
CC-Link IE TSN は、ハードウェア・プロトコルを必要とせず、汎用マイコンとしてのソフトウェア・プロトコルだけで実現することができますが、STM32ファミリに組み込まれているイーサネットMACを使うと、より正確な時間プロトコルをサポートすることができます。そのため、STM32ファミリはリモート局用マイコンとしてCC-Link IE TSNに容易に対応できます。
STではパートナー・ソリューションとして、次に挙げるようないくつかのCC-Link IE TSN リモート局用サンプル・コードを提供しています。
製品名:Port CC-Link IE TSN
仕様概要:
リモート局実装用のソフトウェア・スタック。1Gbit/sまたは100Mbit/sの帯域幅とTSNを備えた産業用イーサネット。リアルタイム・トラフィックと標準のイーサネット・トラフィック(Webサーバ、FTP、SNMPなど)を同じネットワーク経由で送信が可能。
対象マイコン:STM32F4 / STM32F7
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その他の産業用ネットワーク対応
(1)Hilscher社
製品名:
I-NUCLEO-NETX (netSHIELD、STM32 Nucleo-64 / 144開発ボード用の拡張ボード)
I-CUBE-NETX(STM32Cubeの拡張ソフトウェア)
仕様概要:
I-NUCLEO-NETX(netSHIELD)は、あらゆるリアルタイム・イーサネット・プロトコル(EtherCAT、PROFINET、EtherNet/IP、POWERLINK、Modbus TCP、Sercos III、CC-Link IE等)に対応。また、Fieldbus規格(CANopen等)のほか、クラウド・データ通信用のOPC-UAおよびMQTTにも対応。
I-CUBE-NETXソフトウェア・パッケージには、EtherCAT、PROFINETおよびEtherNet/IPプロトコルを評価可能なファームウェア(無償)が付属。また、同梱のHilscher社のcifX APIおよびcifX ツール・キットとSTM32開発エコシステムでリアルタイム・イーサネット・プロトコルを使用可能。
対象マイコン: STM32F4 / STM32F7 / STM32H7 シリーズ
関連URL:
製品名:Anybus CompactCom 40 シリーズ
仕様概要:
同一ハードウェアで10種類以上のネットワークに対応可能。また、Chip・Brick・Module の 3種類の形態で提供可能。プロセス・データ交換処理を高速かつ簡略化、低遅延を実現可能。仕様変更にはファームウェア・アップデートで追従可能。
IIoT (OPC-UAおよびMQTT) にも対応可能、また、ブラック・チャネルによる機能安全通信に対応。
評価用ボードとしてNUCLEO-H743ZI (STM32H743ZI搭載)、およびSTM3240G-EVAL(STM32F407IG搭載)に対応。
対象マイコン:STM32F4 / STM32H7シリーズ
サンプル・コードは、下記URL内にて必要事項登録後、メールにてダウンロード・アドレスが入手可能。
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Anybus CompactCom 40シリーズ – Chip/Brick/Module
Anybus CompactCom M40 組み込みイメージ
(3)株式会社アナザーウェア
製品名:OPC UA Toolkit for ITRON(ミドルウェア)
仕様概要:
ITRON向けOPC UA SDK(Software Development Kit – ソフトウェア開発キット)です。すべてのProfileに対応したStandard版とマイコンなどに実装可能なコンパクト・サイズのEmbedded版の2種類を提供。
サンプル・プログラムやテスト・プログラムが豊富で、FA機器や設備へのOPC UAの組み込みが簡単かつ短期間で実現可能。
対象マイコン:STM32F7 / STM32H7シリーズ
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